用語集(血管)
ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)
定義
von Willebrand因子(VWF)切断酵素(VWF-cleaving protease, VWF-CP)とも呼ばれる.血小板凝集能の高い超高分子量VWFマルチマーを切断して低分子量化することで,止血反応を調節する.ポイント
- 血漿に約1μg/mLで存在する190 kDaの糖蛋白質であり,分泌型亜鉛メタロプロテアーゼであるADAMTSファミリーに属する.VWFのTyr1605-Met1606間を切断する.
- 遺伝子は染色体9q34に存在し,29個のエキソンからなる.翻訳された1,427アミノ酸残基のポリペプチドからシグナル配列とプロペプチドが除去され,細胞外へ分泌される.ディスインテグリン様ドメイン,トロンボスポンジン1型モチーフなど,多くのドメイン構造をもつ.
- ADAMTS13に対する自己抗体が生じてVWF切断活性が失われると,細小血管で血小板の過剰凝集が起こり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)につながる.
- 常染色体劣性遺伝形式を示すUpshaw-Schulman症候群では,複合ヘテロあるいはホモ接合性のADAMTS13遺伝子異常がみられる.
- 日本では,低活性を示すPro475Ser多型が約10人に1人の頻度でみられる.この多型とTTPあるいは他の疾患との関連は明らかになっていない.
- 活性測定には, FRETS-VWF73を基質とする蛍光法や,モノクローナル抗体を用いるELISA法が主に用いられている。
Budd-Chiari症候群(バッド・キアリ症候群)
定義
肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄により門脈圧が亢進する疾患。ポイント
- 自覚症状は、1)腹水、2)下腿浮腫・下肢静脈瘤、3)腹壁の血管の怒張、4)門脈圧亢進症状としての食道静脈瘤、脾腫、貧血などがある。
- 下腿浮腫,下肢静脈瘤,上行する胸腹壁の静脈怒張などの症状を示す疾患。
- 欧米に多いとされる肝静脈閉塞症では,骨髄増殖性疾患,発作性夜間ヘモグロビン尿症,避妊薬,膠原病や血液凝固異常などが原因として挙げられている。
- 本邦においては肝部下大静脈の閉塞,特に膜様の閉塞による発症例が多いが、発生頻度は100万人に対し2.4人とまれである。
- アジアやアフリカなどに多いとされる下大静脈閉塞では原因不明なものが多く,先天性奇形のほか,細菌性静脈炎,肝部下大静脈付近への肝静脈血の流入による乱流や呼吸,咳嗽による横隔膜の動きが血栓を誘発するとの考えもある。
eNOS(nitric oxide synthase,内皮型一酸化窒素合成酵素)
接着因子(adhesion molecule)
TGF-β(transforming growth factor-β,形質転換成長因子-β)
VEGF(Vascular endothelial growth factor,血管内皮増殖因子)
定義
1983年 Ferrara らにより発見された血管内皮細胞に特異的な増殖因子である。同年Senger, Dvorak らにより血管透過性作用を有する因子が発見され VPF (vascular permeability factor,血管透過性因子) と名付けられた。タンパク配列解析の結果、2つは同一のものであることが判明した。ポイント
- VEGF は血管の内側にある内皮細胞の受容体 (flt-1, flk-1)に結合して、増殖を促す。がんがある程度大きくなって酸素不足になると、VEGFとその受容体が増加して血管新生が起こる。胎児期に血管をつくるだけではなく、病的な血管をつくるときにも作用している。
- 血管透過性亢進作用により癌性腹水の原因の1つと考えられている。また糖尿病が進行すると網膜に新生血管が形成され網膜症の原因と考えられている。腹水、眼房水からVEGFが検出される。
- 低酸素状態によりその発現が誘導されることにより血管新生への重要な役割を担っているといえる。
- 血管新生のみならず、腫瘍、炎症性病変などにみられる浮腫のメカニズムを説明するうえで本因子の関与が強く示唆されている。
- 近年、VEGF受容体を標的にした新しい抗癌剤の開発が進み欧米では大腸癌の肝臓転移に対して臨床応用されている。
血管新生 (angiogenesis)
定義
血管新生 (angiogenesis) は既存の血管から血管を構築している細胞(特に血管管腔の内壁を裏打ちしている血管内皮細胞)の増殖、遊走により新しい血管ネットワークが形成される現象のことである。ポイント
- 以下の2つに分類される。1つは、生体内でごく普通に起こる生理的現象 (physiological angiogenesis) で,創傷治癒の起点や炎症による肉芽形成,胎児や胎盤の形成,子宮内膜における性周期などでみられる。
- Physiological angiogenesis は生体防御反応の一種であり,病気の治癒,組織の発生,再生に関与するものである。
- 病態生理の進展と密接に関連した血管新生 (pathological angiogenesis) として,糖尿病性網膜症,黄斑変性,乾癬,関節リウマチ,動脈硬化のプラーク形成,そして悪性固形腫瘍の増殖がある。
- pathological angiogenesis は病因そのものであり、特に悪性固形腫瘍の増殖,再発,遠隔転移に血管新生が深くかかわっていることは近年数多く報告されてきている。
血管内皮細胞(vascular endothelial cells, vascular endothelium)
定義
血管の内壁を裏打ちしている一層の扁平な細胞で、血栓付着を予防し、血管損傷が生じた場合に修復されるが、正常内皮の増殖速度は極めて緩徐である。また生体防御にかかわる様々なサイトカインを産生することが知られている。ポイント
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- 血管の収縮弛緩反応や血栓形成予防のために大切な機能を司っている。血管が損傷したり局所で炎症反応により組織損傷が生じた際に血小板やリンパ球と接着し組織修復に関与することが知られている。
- 創傷治癒や炎症による肉芽形成、さらに糖尿病性網膜症,黄斑変性,乾癬,関節リウマチ,動脈硬化のプラーク形成、悪性固形腫瘍の増殖の際に認められる血管新生・血管発生の際、増殖・遊走することにより新たな血管形成の主役を担っている。
- 近年内皮前駆細胞 (endothelial precursor cell; EPC)も発見され、骨髄由来の細胞や末梢血液から単離することも可能となり、血管外科領域や血管新生を介した臓器再生医学への応用が期待されている。
メタボリック症候群(メタボリックシンドローム,metabolic syndrome)
「PAI-1とメタボリック症候群」
肥満という病態の中心的役割を果たしていると考えられる大型脂肪細胞は高度のインスリン抵抗性を有しており、またTNF-αやTGF-βなどの炎症性サイトカインも活発に産生、分泌している。このようにメタボリック症候群では、微小血管における慢性炎症の持続が、動脈硬化を始めとした血管病変の形成や血栓形成傾向を招来していると考えられる。先に述べたようにPAI-1は炎症時に著明な発現亢進をきたすが、炎症性サイトカインだけでなく、インスリンやアンギオテンシン II などメタボリック症候群において血中レベルが上昇するホルモンや生理活性物質によっても発現誘導を強く受ける。
このように血栓傾向および血管病変の増悪因子として重要なPAI-1の発現は、メタボリック症候群として包括される種々の病態(肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧)において著明に亢進しており、これがメタボリック症候群における血栓症発症の一要因になっていると推測される。PAI-1は血栓症発症の危険度を評価するよい指標になり得ると考えられるが、一方でPAI-1中和抗体やRNAiを用いたPAI-1発現制御がメタボリック症候群における血栓症予防に有効である可能性がある。
アディポネクチン(adiponectin)
インスリン抵抗性(insulin resistance)
抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome, APS)
定義
抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies, aPL)の存在により,血栓症,不育症を来たす自己免疫疾患を抗リン脂質抗体症候群という.ポイント
- aPLにはELISAで測定可能な定量的検査である,抗カルジオリピン抗体(anticardiolipin antibody, aCL),抗β2グリコプロテイン I 抗体(anti-β2 glycoprotein I antibody, aβ2GP I )と,凝固時間法で測定する定性的検査である,ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant, LA)などがある.
- 血栓は動脈,静脈を問わず,また血管の大きさに関わらず反復することを特徴とする.
- 他の自己免疫疾患と異なり,免疫抑制療法の有用性は証明されておらず,治療は永続的な抗血栓療法が中心となる.若年性血栓症患者,血栓を繰り返す症例,不育症症例では抗リン脂質抗体の検索が必要となる.
- LA陽性例ではAPTTなどの凝固時間が延長するが,出血症状ではなく,血栓症を起こすことに留意が必要である.
- APSの25-40%の症例では血小板減少をともなう.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と診断される症例の中には,実際にはAPSによる血小板減少を見ている場合がある.この場合には出血ではなく,血栓を来すのでITPの診断時にはAPSの除外が重要である。
抗リン脂質抗体ELISA法
抗β2-グリコプロテイン I 抗体(anti-b2-glycoprotein I antibody, aβ2GP I)
定義
リン脂質を用いずに、β2-グリコプロテイン I(β2GP I)を直接固相化して検出する抗リン脂質抗体のひとつ。2006年の抗リン脂質抗体症候群の分類基準(シドニー改変サッポロクライテリア)の検査項目にあらたに加えられた。ポイント
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- 固相化には酸化ELISAプレートが用いられる。その理由は、β2GPIの自己抗原エピトープの表出にはβ2GPIとリン脂質または酸化表面との相互作用が必要であるため。
- 検出する抗体は、基本的にはβ2GP I依存性抗カルジオリピン抗体と同じものである。
- 抗リン脂質抗体症候群のマーカーであり、血栓症、妊娠合併症(流産や子宮内胎児発育不全、妊娠高血圧症など)と相関する。
- IgG型、IgM型があり、両者を測定することが望ましい(ただし、2008年6月現在で健保収載なし、国内での測定キットの発売なし)。
- 最近、β2GP I のドメイン I のみを抗原として用いる抗β2GP IドメインI抗体の測定が開発され、抗リン脂質抗体症候群のマーカーとして特異性が改善している。
抗カルジオリピン抗体(anticardiolipin antibody,aCL)
定義
抗リン脂質抗体症候群の代表的マーカー自己抗体で、リン脂質であるカルジオリピンをELISAプレートに固相化して検出する抗リン脂質抗体のひとつである。抗リン脂質抗体症候群で検出される抗カルジオリピン抗体は、実際にはカルジオリピンとβ2-グリコプロテイン I(β2GP I )との複合体を認識しており、β2GP I 依存性抗カルジオリピン抗体とよばれる。ポイント
- 我が国で健保収載のIgG型抗カルジオリピン抗体測定には2種類ある。ひとつは古典的抗カルジオリピン抗体(MBL社)で、アッセイの系のなかでウサギ血清が使用されており、自己抗体はカルジオリピンとウサギβ2GP I の複合体を認識して検出される。スクリーニング検査に適する。
- もうひとつは、カルジオリピン固相化後に精製ヒトβ2GP I を加えてその複合体に結合する自己抗体を測定する方法で、抗カルジオリピン-β2GP I 複合体抗体である(ヤマサ醤油社)。β2GP I の存在下でのカルジオリピンへの結合と非存在下でのそれとを比較することが可能で、抗カルジオリピン抗体のβ2GP I 依存性を確認できる。
- 全身性エリテマトーデスの分類基準にも採用されている。
- 抗リン脂質抗体症候群、全身性エリテマトーデスとも分類基準にはIgG型もしくはIgM型と記載されているが、IgM型は健保未収載である。
- β2GP I 非依存性抗カルジオリピン抗体は、通常は低力価であり、感染症(梅毒、ウイルス性肝炎など)、膠原病、悪性腫瘍などポリクローナルB細胞活性化が存在する状態では高頻度に陽性となり、特異性に乏しい。
抗プロトロンビン抗体(Antiprothrombin antibody, aPT)
定義
ループスアンチコアグラント活性と関連しており、いわゆるプロトロンビン依存性ループスアンチコアグラントの責任抗体と考えられている。プロトロンビン単独に結合する抗プロトロンビン抗体(aPT-A)と、ホスファチジルセリンとプロトロンビンとの複合体に結合する抗体(aPS/PT)の2種類があり、後者が抗リン脂質抗体症候群と強く相関している。ポイント
- 健保未収載であるが、IgG型のaPS/PTは我が国で2種類の測定キットが発売されている(コスミックコーポレーション社およびMBL社)。IgM型は国内販売はない。
- aPT-AとaPS/PTの力価は相関がない。抗リン脂質抗体症候群の補助マーカーとして、あるいはループスアンチコアグラントの確認試験の代用として測定する場合は、aPS/PTを測定する。
- 小児では感染症に合併して一過性に抗プロトロンビン抗体(aPS/PTとaPT-Aの両者)が出現し、低プロトロンビン血症およびループスアンチコアグラント検査が陽性となる。一過性の出血傾向または無症状であり、低プロトロンビン-ループスアンチコアグラント症候群とよばれる。本症の病態は不明であるが、自然に治癒すること、臨床症状が血栓ではなく出血傾向であることから、抗リン脂質抗体症候群とは別の症候群として定義されている。
ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant, LA)
定義
単一の凝固因子活性を低下させることなく,リン脂質依存性の凝固時間を延長させる免疫グロブリン.ポイント
- 抗リン脂質抗体の1つであるが,凝固時間法で判定する定性的検査である.
- その本態は抗β2-glycoprotein I抗体とphosphatidylserine依存性抗prothrombin抗体が大部分を占めると考えられている.
- 診断には
が必要である.(ア) 高感度スクリーニング検査におけるリン脂質依存性凝固時間の延長(PTT-LA, dRVVT-screening, kaolin clotting time,など) (イ) ミキシング試験で正常血漿添加によっても凝固時間延長が是正されない=インヒビターの存在 (ウ) 過剰リン脂質添加による凝固時間延長の是正(Staclot LA, dRVVT-confirm, Platelet neutralization procudure,など) (エ) 単一の凝固因子に対するインヒビター(FVIIIインヒビターやFVインヒビター)の除外 - 通常のAPTT試験では延長しないことがあり,抗リン脂質抗体症候群を疑った場合には高感度試薬を用いた検討が必要である.
不育症(pregnancy morbidity)
定義
喉の痛みの喫煙
a) | 妊娠10週未満の自然流産を3回以上繰り返すもの |
b) | 胎児の奇形を伴わない妊娠10週以降の死産 |
c) | 子癇または重症妊娠高血圧症候群,胎盤機能不全による妊娠34週未満の低体重児出産を総称して「不育症」という. |
ポイント
- 不育症の原因としては,母体の感染症・子宮の解剖学的異常・ホルモン異常(糖尿病,甲状腺機能障害),父母の染色体異常などが挙げられる.
- 15-50%の症例では抗リン脂質抗体症候群(APS)が原因とされていることから,不育症の原因検索の際には抗リン脂質抗体の測定が必要となる.
- このほかの凝血学的異常としては,凝固第XII因子・XIII因子欠乏(異常)症やプロテインC・プロテインS・アンチトロンビン欠乏(異常)症も不育症の原因として報告例がある.
HELLP症候群 (HELLP syndrome)
定義
妊娠高血圧症候群や子癇患者で溶血(Hemolysis)、肝酵素の上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelets)などをもつ疾患をHELLP症候群という。ポイント
- 症状は、上腹部痛、疲労感、倦怠感、嘔気、嘔吐、食欲不振などである。発症に先行して血小板減少がみられる。
- 発症リスクとして、多胎妊娠、抗リン脂質抗体症候群などの血栓素因、肝機能障害、膠原病、ITPなどがある。
- 適切な管理をしないと予後不良である。主な合併症は、DIC、常位胎盤早期剥離、腎不全、肺水腫などがある。
- 治療は、妊娠高血圧症候群やDICなどの合併症に対する治療に準ずるが、最も有効な治療は妊娠の終了である。
深部静脈血栓(deep vein thrombosis, DVT)
定義
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)は、骨盤内、大腿、下腿などの深い部位にある静脈に血栓(血の塊)が形成される疾患である。DVTから血栓が遊離すると肺動脈を閉塞し、肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)を併発する。これらは合併することも多いので総称して静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と呼ばれる。わが国でも生活習慣の欧米化や高齢化社会の到来などの理由により、近年発症数は急激に増加している。いわゆる、旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)と呼ばれる場合もある。ポイント
原因:1)血液凝固能の亢進、2)血流の停滞、3)静脈壁の損傷が重要で、ウィルヒョウの3徴と呼ばれている。下肢の血液を重力に逆らって心臓に戻すためには、下肢骨格筋の収縮による筋ポンプ作用が大切である、長期臥床や肥満例ではこれらの作用が減少し、血流が停滞しやすくなる。症状:DVTは、大腿や下腿に発赤、腫脹、むくみ、痛み等の症状が出現する。両足にできることもあるが、左足にできることが多い。PTEは胸の痛み、息苦しさ、咳など軽いものから、呼吸困難やショック状態を呈し、突然死する重篤なものまである。
リスク因子:安静臥床、脱水、高齢、肥満、妊娠、下肢骨折・外傷、下肢麻痺、癌、心不全、DVT/PTEの既往、血栓性素因(血が固まりやすい体質)などの要因で、より発症しやすくなる。
予防:充分な水分補給、下肢の運動、とくに足関節の背屈・底屈が効果的である。しかし、自由に動けない手術患者さんの場合は、弾性ストッキング着用や下腿マッサージ(間欠的空気圧迫法など)を行ったり、抗凝固薬を投与することがある。
地震災害とDVT(seismic hazard and DVT)
静脈瘤(varicose vein,varix)、血栓性静脈炎(thrombophlebitis)
動脈硬化(atherosclerosis)
定義
動脈の内膜下に斑点状の肥厚を特徴とする血管病変で、脂質を貪食したマクロファージの集まりである泡沫細胞により形成され線維性プラークに発展する。ポイント
- 成因として血漿低密度リポタンパク質 (LDL) 濃度の上昇により LDL が動脈壁内へ透過し脂質の蓄積が平滑筋細胞内に生じると考えられている。LDL は平滑筋細胞過形成、内膜下領域への細胞遊走を促進させることも知られている。
- 血管内皮の損傷も加わり血管内皮の喪失、血小板の内皮下層への接着、血小板の凝集、単球、Tリンパ球走化性、血小板由来増殖因子、単球由来増殖因子の遊離を促し、これら増殖因子により平滑筋細胞が中膜から内膜へ遊走し、そこで分裂増殖し、結合組織を合成し、プラークを形成するといった機序が考えられている。
- 危険因子として、高血圧、喫煙、糖尿病、肥満、運動不足、家族歴などがあげられる。
閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans,ASO)
脳梗塞(cerebral infarction)
定義
脳血管の閉塞により脳組織が虚血に陥り、壊死を生じることにより局所的神経症状を呈する病態。ポイント
- 脳梗塞は脳出血、くも膜下出血とともに脳血管に起因して急激に局所神経症状が発症する脳卒中の病型の一つであるが、近年は日本でも脳梗塞の比率が増加しており、脳卒中全体の4分の3を占める。
- 脳梗塞は臨床カテゴリーによりアテローム血栓性、心原性、ラクナ、その他に分類されるが、最近はアテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症が増加し、ラクナ梗塞ととともに3病型はほぼ同じ比率を占めるようになった。
- アテローム血栓性脳梗塞は頭蓋外の大血管や脳内の主幹動脈(大血管病)に起因し、皮質または皮質下に生じる直径15mm以上の脳梗塞である.心原性脳塞栓症は心疾患に起因し、心臓内に形成される血栓や心臓内を通過する血栓が塞栓源となって脳動脈を閉塞して生じる脳梗塞である.ラクナ梗塞は脳内穿通動脈の細動脈硬化(小血管病)に起因する脳皮質下の直径15mm未満の脳梗塞である。
- アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞の危険因子は高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病(CKD)などであり、心原性脳塞栓症の原因には心房細動、急性心筋梗塞、人工弁置換、左室血栓などが挙げられる。その他の脳梗塞の原因には血液凝固異常、血管攣縮、血管炎、血管奇形などがある。
奇異性脳塞栓症(paradoxical cerebral embolism)
心房細動(atrial fibrillation, af)
急性冠症候群(acute coronary syndrome, ACS)
肺塞栓症(pulmonary embolism, PE)
定義
肺塞栓症とは、本来は、血栓塞栓、腫瘍塞栓、空気塞栓、羊水塞栓、脂肪塞栓、骨髄塞栓など様々な塞栓子が肺動脈を閉塞することで生じる疾患の総称である。しかし、なかでも特に頻度の高い肺血栓塞栓症を指して肺塞栓症と呼ぶことも少なくない。ポイント
塞栓子の種類によって診断や治療が異なるため、以下、肺血栓塞栓症について述べる。- 塞栓源の90%以上は下肢あるいは骨盤内の静脈血栓である。
- 治療の基本は抗凝固療法であり、禁忌でない限り、疑った時点より投与を開始すべきである。抗凝固療法の継続期間は血栓を生じた危険因子の種類によって決定する。
- 広汎型や亜広汎型といった重症例に対しては、早期に積極的に血栓を溶解することを目的として、血栓溶解療法が適応となる。
- 肺血栓塞栓症の確定診断の過程で、残存する塞栓源の有無を同時に検索し、有意な血栓が残存する場合には下大静脈フィルターを用いて再発予防を施す。
- 特に、若年発症例、家族内発症例、再発例では、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症、アンチトロンビン欠損症、抗リン脂質抗体症候群といった血栓性素因の検索が必要である。
肺高血圧症(Pulmonary hypertension, PTH)
定義
肺高血圧症とは、さまざまな原因により肺動脈圧の上昇を認める病態の総称である。健常者では、安静臥位にて平均肺動脈圧は15 mmHgを超えず、加齢による上昇を考慮しても20 mmHg以上にはならない。従って、安静臥位での平均肺動脈圧が25 mmHgを超える場合(肺実質疾患、睡眠時無呼吸症候群、肺胞低換気症候群では20 mmHgを超える場合)に肺高血圧症と診断される。ポイント
- 治療法や予後が異なることより、肺高血圧症を来した原因を十分に検索することが重要である。(肺動脈性肺高血圧症、左心疾患に伴う肺高血圧症、肺疾患/低酸素血症に伴う肺高血圧症、慢性血栓性/塞栓性疾患に伴う肺高血圧症、など)
- 特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)/家族性肺動脈性肺高血圧症(FPAH)の発症機序は未だ明らかではないが、近年、海外ではFPAHの約50%、IPAHの約20%に bone morphogenetic protein receptor type 2 gene (BMPR2)の変異が存在することが報告されている。
- 肺動脈内血栓形成による病態進行を防ぐため抗凝固療法が、低酸素性肺血管攣縮による肺血管リモデリング進展を防ぐため酸素療法が用いられる。
- 肺動脈性肺高血圧症に対しては、エポプロステノール(持続静注)、ボセンタン(経口)、シルデナフィル(経口)、ベラプロスト(経口)といった血管拡張薬が使用される。
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症のなかでも器質化血栓が中枢肺動脈に存在する例に対しては外科的血栓内膜摘除術が奏功する。
網状皮斑 (livedo reticularis, LR)
定義
皮膚がまだらに紫紅色に変色をきたし、網目状ないし分枝状の模様を呈する状態を網状皮斑という。ポイント
- 真皮下層から皮下脂肪織の動脈の血流障害により、その末梢(真皮の上層)の毛細血管がうっ血・拡張して局所的なチアノーゼを呈することにより生じる。
- 種々の血管炎や血栓症に伴ってみられることが多く、寒冷刺激で悪化する。皮斑の一部に硬結(血管炎や血栓による)や潰瘍を伴うこともある。
- 抗リン脂質抗体症候群は、その約40%に皮膚病変が初発症状として認められるが、最も頻度の高いのが網状皮斑である。
- 結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発動脈炎、血管炎を伴う全身性エリテマトーデスなどの種々の血管炎でも認められる。
レイノー症状 (Raynaud's phenomenon)
定義
四肢末端の小動脈の発作性攣縮により、手指などの色調が蒼白になり、紫→紅色(あるいは紫を介さず紅色)に変化して正常に戻る現象をレイノー現象という。ポイント
- レイノー現象は膠原病や振動病(振動工具の使用などによる職業病)などの基礎疾患によって生じる場合と基礎疾患のみられない場合があり、後者はレイノー病と呼ばれる。
- 基礎疾患として膠原病が多く、中でも全身性強皮症やその部分症状を有する混合性結合組織病に頻度が高い。強皮症では通常レイノー現象が初発症状である。
- 寒冷刺激によって生じるが、精神的緊張でも起こりうる。
- 指先の一時的な虚血によるしびれ、疼痛を伴うことが ある。
- レイノー現象の治療(予防)には、血管拡張薬や抗血小板剤が使用される。日常生活では、全身や手足の保温と精神的なリラックスが大切である。
単純性紫斑・老人性紫斑(purpura simplex,senile purpura)
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