ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)
定義
von Willebrand因子(VWF)切断酵素(VWF-cleaving protease, VWF-CP)とも呼ばれる.血小板凝集能の高い超高分子量VWFマルチマーを切断して低分子量化することで,止血反応を調節する.ポイント
- 血漿に約1μg/mLで存在する190 kDaの糖蛋白質であり,分泌型亜鉛メタロプロテアーゼであるADAMTSファミリーに属する.VWFのTyr1605-Met1606間を切断する.
- 遺伝子は染色体9q34に存在し,29個のエキソンからなる.翻訳された1,427アミノ酸残基のポリペプチドからシグナル配列とプロペプチドが除去され,細胞外へ分泌される.ディスインテグリン様ドメイン,トロンボスポンジン1型モチーフなど,多くのドメイン構造をもつ.
- ADAMTS13に対する自己抗体が生じてVWF切断活性が失われると,細小血管で血小板の過剰凝集が起こり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)につながる.
- 常染色体劣性遺伝形式を示すUpshaw-Schulman症候群では,複合ヘテロあるいはホモ接合性のADAMTS13遺伝子異常がみられる.
- 日本では,低活性を示すPro475Ser多型が約10人に1人の頻度でみられる.この多型とTTPあるいは他の疾患との関連は明らかになっていない.
- 活性測定には, FRETS-VWF73を基質とする蛍光法や,モノクローナル抗体を用いるELISA法が主に用いられている。
Budd-Chiari症候群(バッド・キアリ症候群)
定義
肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄により門脈圧が亢進する疾患。ポイント
- 自覚症状は、1)腹水、2)下腿浮腫・下肢静脈瘤、3)腹壁の血管の怒張、4)門脈圧亢進症状としての食道静脈瘤、脾腫、貧血などがある。
- 下腿浮腫,下肢静脈瘤,上行する胸腹壁の静脈怒張などの症状を示す疾患。
- 欧米に多いとされる肝静脈閉塞症では,骨髄増殖性疾患,発作性夜間ヘモグロビン尿症,避妊薬,膠原病や血液凝固異常などが原因として挙げられている。
- 本邦においては肝部下大静脈の閉塞,特に膜様の閉塞による発症例が多いが、発生頻度は100万人に対し2.4人とまれである。
- アジアやアフリカなどに多いとされる下大静脈閉塞では原因不明なものが多く,先天性奇形のほか,細菌性静脈炎,肝部下大静脈付近への肝静脈血の流入による乱流や呼吸,咳嗽による横隔膜の動きが血栓を誘発するとの考えもある。
eNOS(nitric oxide synthase,内皮型一酸化窒素合成酵素)
接着因子(adhesion molecule)
TGF-β(transforming growth factor-β,形質転換成長因子-β)
VEGF(Vascular endothelial growth factor,血管内皮増殖因子)
定義
1983年 Ferrara らにより発見された血管内皮細胞に特異的な増殖因子である。同年Senger, Dvorak らにより血管透過性作用を有する因子が発見され VPF (vascular permeability factor,血管透過性因子) と名付けられた。タンパク配列解析の結果、2つは同一のものであることが判明した。ポイント
- VEGF は血管の内側にある内皮細胞の受容体 (flt-1, flk-1)に結合して、増殖を促す。がんがある程度大きくなって酸素不足になると、VEGFとその受容体が増加して血管新生が起こる。胎児期に血管をつくるだけではなく、病的な血管をつくるときにも作用している。
- 血管透過性亢進作用により癌性腹水の原因の1つと考えられている。また糖尿病が進行すると網膜に新生血管が形成され網膜症の原因と考えられている。腹水、眼房水からVEGFが検出される。
- 低酸素状態によりその発現が誘導されることにより血管新生への重要な役割を担っているといえる。
- 血管新生のみならず、腫瘍、炎症性病変などにみられる浮腫のメカニズムを説明するうえで本因子の関与が強く示唆されている。
- 近年、VEGF受容体を標的にした新しい抗癌剤の開発が進み欧米では大腸癌の肝臓転移に対して臨床応用されている。
血管新生 (angiogenesis)
定義
血管新生 (angiogenesis) は既存の血管から血管を構築している細胞(特に血管管腔の内壁を裏打ちしている血管内皮細胞)の増殖、遊走により新しい血管ネットワークが形成される現象のことである。ポイント
- 以下の2つに分類される。1つは、生体内でごく普通に起こる生理的現象 (physiological angiogenesis) で,創傷治癒の起点や炎症による肉芽形成,胎児や胎盤の形成,子宮内膜における性周期などでみられる。
- Physiological angiogenesis は生体防御反応の一種であり,病気の治癒,組織の発生,再生に関与するものである。
- 病態生理の進展と密接に関連した血管新生 (pathological angiogenesis) として,糖尿病性網膜症,黄斑変性,乾癬,関節リウマチ,動脈硬化のプラーク形成,そして悪性固形腫瘍の増殖がある。
- pathological angiogenesis は病因そのものであり、特に悪性固形腫瘍の増殖,再発,遠隔転移に血管新生が深くかかわっていることは近年数多く報告されてきている。
血管内皮細胞(vascular endothelial cells, vascular endothelium)
定義
血管の内壁を裏打ちしている一層の扁平な細胞で、血栓付着を予防し、血管損傷が生じた場合に修復されるが、正常内皮の増殖速度は極めて緩徐である。また生体防御にかかわる様々なサイトカインを産生することが知られている。ポイント